札幌高裁判事がおっしゃるには

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気が付けば前の更新からもうほぼ一週間。
来週いっぱい海外出張のせいもあってか、何だか妙に忙しいのです。
結構面白い事件がめまぐるしく動いていて、ぶっちゃけかなり楽しい日々なのですが、ここでは書けません。
守秘義務がありますからね。
弁護士ブログの辛いところ?です。
さてさて、先日みかけた気になる記事。
札幌高裁の総括判事さんが、函館ラサール高校同窓会のHPに、何やら面白げな投稿をしたらしいですね。
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http://mainichi.jp/select/today/news/20090711k0000m040131000c.html
2009年7月11日 2時30分 更新:7月11日 2時30分
 札幌高裁の末永進・民事第2部総括判事(64)が、出身高校同窓会のホームページ(HP)に、民事裁判の長期化について、「弁護士の資質の低下」が要因とし、司法制度改革による弁護士の増員を懸念する投稿をしていたことが分かった。現職判事の司法制度に関する発信は異例。
 末永総括判事の投稿は5月25日付で、函館ラ・サール高校(北海道函館市)の同窓会ホームページに掲載されている。タイトルは「民事裁判はなぜ時間がかかるのか」。
 末永総括判事は「弁護士のなかには(権利を意味する)訴訟物という法律用語すら知らない人や、訴訟物の存在を主張する一定の事実を正確に理解していない人もいる」と指摘。民事訴訟の長期化について、「裁判所にも遅延要因がないわけではありません」としながらも、「十分に事実を調査せずに訴状を提出する当事者(代理人弁護士)に多くの原因がある」とした。
 さらに、「我が国の裁判制度は、ある意味で、退化しているような気もしています」と懸念を表明。司法改革の一環で司法試験合格者を毎年、3000人程度に増員することについて「(弁護士の)質の低下が危惧(きぐ)されますし、現に私の法廷ではその傾向がはっきりと窺(うかが)われます。法廷で弁護士にいろいろと教示する必要がでてきている」とした。
 中山博之弁護士(札幌市)は「現職判事の意見表明はよいこと。ただ、弁護士人口の増加と質の低下は必ずしもつながらない」と反論している。札幌弁護士会は「コメントできない」としている。
 末永総括判事は札幌高裁総務課を通じて「取材には応じられない」とコメントした。
 末永判事は東京高裁などを経て01年、釧路地家裁所長に。04年から札幌高裁民事第2部総括判事。【水戸健一】
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これって、判事さんの心からの叫びなんだと思いますよ。
おそらく札幌地裁高裁では、表面的には「軽率」みたいに言われちゃうんでしょうが、
きっと中には「よくぞ言った!」と拍手喝采の方も結構いらっしゃる気がします。
裁判官に限らず書記官とか事務官とか、はたまた検察官とか検察事務官とかね。
私も法廷に行くと、少し前までなら見かけなかったような光景を目の当たりにして
愕然とすることがあります。
「え!アイツ当事者本人かと思ったら書記官が先生って!アイツ弁護士なの!」ってなトンデモ発言をしちゃってる(しかもそれに自ら気付いてない)若手さんが増えてる気がします。
ここ1~2年くらいでとみに感じるようになったので、やっぱり増員と関係あるんだろうと思います。
日弁連系統のお偉いさんは、「増員とは結びつかない」とか言わざるを得ないんでしょうけど。
いやいや、みーんな誰もが分かってますって。
分からないのは、弁護士に依頼したことがなくてドキドキしながら初めて法律相談しちゃったりする一般市民の方々くらいでしょう。最初に会った弁護士がやばいかどうかなんて、なかなか分からないですよね。
末永判事さん、「訴訟物」のことについて書かれたようですね。
確かに「訴訟物」を知らないという弁護士がいたとしたら、痛々しいことこの上ないです。
そもそも今まで私が経験してきた法廷の中で、「訴訟物」という言葉が出て来たことはありません。
何でその若いセンセイの法廷ではそんなレアな展開になったのかなぁと考えると、たぶん訴状の作り方が甘すぎたんでしょうね。
だから裁判官から「そもそもこの訴状における訴訟物は何なんですか?」というようなつっこみでも受けて、返答に窮してしまった、というあたりでしょう。
ただ、「訴訟物は何なんですか?」っていう質問って、いわば「どうして夕焼けは赤いの?」みたいな、かなり根源的な質問なのですよ。
それだけに、いきなり法廷で聞かれたら、私も面食らうかも知れませんね。まあそれでもちゃんと切り抜けるとは思いますが。
そういう意味では、いきなりデビュー間もない法廷でこんな質問を受けてしまった若手さんにも、ちょっと同情の余地はあるかもです。
と、ちょっとだけフォロー。
あと、末永判事さん、「事実の調査を十分にせずに訴状を提出する弁護士が、訴訟遅延を招いている」ともおっしゃったようですね。
これは確かにそういう面もあると思います。激しく同意します。そういう迷惑な弁護士っていますよ。若手に限らず。
判事さんがどの程度のレベルで「事実調査不十分」とおっしゃったのかは不明ですが、おそらくは相当基礎的なレベルでの調査不足を指摘したんでしょうね。
ただ、弁護士って裁判所と異なり、基本的に一方当事者の言い分しか聞けないものなのですよ。
そういった中で、当事者との信頼関係を保ちつつ、当事者にとって不利益な事実等も聞き出しながら、出来る限り客観的な訴状を書くのって、たぶん判事さんが思っている以上に難しい作業なのです。
幸い私は単刀直入にざっくばらんなトークを展開できるタイプであるためか、依頼者さんにとって痛いことでも割に平気で、ときには半分ジョーク混じりで聞き出せちゃったりします。
しかしこんな芸当が出来る人たちばかりではありません。弁護士も依頼者も。
末永判事さんも、一度弁護士会相談とかにこっそり入っていただければ、一方当事者からのみのリサーチの苦労を体感していただけるかも知れませんね。
私、そのうち機会があれば、非常勤裁判官として横浜地裁・簡裁あたりで週1日くらい勤務してみたいと思っています。
もしそういうことができれば、裁判所と弁護士会との交流もできるだけ図っていきたいですね。
ではまた。