塀によじ登った時点で建造物侵入罪が既遂?

Blog

先日ご相談頂いた方(20代女性)とお電話で話したところ、「先生のHP見ました!」「ブログも見ました!♪」とのコメントを頂きました。
いや~、面と向かって言われるとこっぱずかしいですね。
ここ最近どえらくゆる~い投稿ばっかなので。
思いっきり顕名ブログですから、こっぱずかしくないような内容にしないといけませんね。
というわけで、本日目に止まった法律関連記事です。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090715-00000095-jij-soci
7月15日17時37分配信 時事通信
 塀によじ登る行為が建造物侵入罪に当たるかが争われた刑事裁判で、最高裁第1小法廷(金築誠志裁判長)は13日付で、塀は建造物の一部とする初判断を示して同罪の成立を認め、瓦職人の男(23)の上告を棄却する決定をした。有罪が確定する。
 男は交通違反取り締まりの捜査車両を調べるため警察署の塀に登り、現行犯逮捕された。
 同小法廷は、この塀について「高さが約2.4メートルで、建物や中庭にみだりに立ち入ることを禁止するために設置されている」と指摘。外部からの干渉を排除する役割を果たしており、同罪が定める建造物の一部に当たると判断した。 
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
事件自体はしょーもない感じですが、ちょっと興味があったので判決の原本に当たろうとしましたが、うまく探せませんでした。
最高裁のHPにもアップされてなかったし。残念。
今の司法試験制度は良く分からないのですが、私が合格した十数年前は、毎年5月の母の日に択一試験というものがありました。
憲法・民法・刑法それぞれについてマークシート方式で各20問、合計60問の問題が出され、それを3時間半で解き、大体40~45問以上正解すれば合格、という感じです。
私は1問3分くらいで解き、残り30分で見直すという方式をとっていまして、ぶっちゃけた話、択一は楽勝でした。こんなの前座の試験で、本番は7月の論文試験でしたからね。
と、そんな話はどうでもいいのですが、何がいいたいかというと、この最高裁の事例って、択一試験とかに出題されそうな、豆知識的な感じだな~、と思ったのです。
「住居侵入罪に関する次の文章のうち正しくないものを選べ。 ①自分の実家に無断で忍び込んだ場合住居侵入罪が成立する、②他人の家の塀をよじ登っても住居侵入罪が成立することはない、③…」みたいな感じでね。
来年択一受ける皆さん?、要注意ですぜ。w
「建造物侵入罪」という言葉を素朴にとらえると、やっぱり建物そのものに侵入した罪、というのが一次的な意味ですよね。
では塀に囲まれた庭に侵入したらどうなるかというと、これもやはり建造物侵入罪になりうるのです。
建物そのものに侵入していなくとも、庭も「建造物」に含まれるというのが判例です。
これは一般的に考えてもあまり違和感はないでしょうね。突然家の庭に侵入してきた不審者が無罪だとなったら誰だってびっくりでしょう。
上記記事によれば、今回の最高裁判決は、それをさらに超えて、「塀によじ登っただけでも建造物侵入罪」と判示した、というわけですね。
この記事が本当に正確なのかどうかよくわからないのですが、もし記事のとおりの判決内容だとしたら、これって皆さんどう思いますか?
確かに今回の被告人の方は、「交通違反取締りの捜査車両を調べるため」に警察署の塀によじ登ったそうなので、そういう不審な行動そのものについては、全く同情の余地はないと思います。
かなりイタイやつな感じです。
しかし、その行動が「建造物侵入罪」に該当するかどうかというレベルでは、それとはまったく別に、「罪刑法定主義」という刑法の根底を貫く大原則との対比で、冷静に考える必要があります。
「罪刑法定主義」というのは、一言で言えば、「刑法に書いてない罪で罰せられることはない」ということです。
当たり前のようですが、これは極めて重要なことです。
刑法に抵触しないように生活していさえすれば、刑務所送りになることはないのですから。
刑法というのは、人の意に反して身柄を拘束したり刑務所送りにしたり場合によっては死刑にしたりできる、ものすごく強力な法律なわけです。
ですから、本来的に刑法は、あまり拡大解釈を容易に認めてはいけない、極めて制限的に考えられなければならない法律なのです。
安易に拡大解釈を認めると、国民の行動が著しく萎縮してしまいますよね。
刑法が安易に拡大解釈されるとろくでもないことばかりが起こるのは、歴史上明らかなのです。
だから、「罪刑法定主義」は、断固として守られなければならないのです。
この「罪刑法定主義」との対比で考えた場合、私は、「塀によじ登ったら建造物侵入罪が既遂になるというのはちょっと行きすぎではないか?」と思います。
もちろん、塀によじ登った時点で、その後に続く建造物侵入罪という犯罪行為に対する「実行の着手」はあったといえますから、「建造物侵入罪の未遂罪が成立する」というのなら、私も納得できます。
既遂とはいえないが、未遂の限度で罰する、というのならよく分かります。
しかし、塀によじ登った時点で建造物侵入罪が一気に既遂になってしまうというのは、いかにも行き過ぎな感じがします。
建造物侵入罪が既遂になるのは、塀によじ登った段階ではなくて、塀を乗り越えた段階じゃありませんか?
塀によじ登った段階は、まだせいぜい未遂の段階じゃないでしょうか?
そういう意味で、「この記事が間違っているのではないか?」「もしかして単に未遂罪の成立を認めただけなのに、記者がそのことを分かってなくてさも既遂が認められたように記事を書いてしまっただけでは?」と思ったのです。
だから判決の原典に当たりたかったのですが。みつからないし。う~ん。
もしこの記事のとおりの最高裁判決が下ったとしたら、「塀に登ろうとしたけど、結局高すぎて登りきることができず、結局侵入を断念した」みたいなケースであっても、建造物侵入罪の既遂になってしまうことになりかねないわけです。
それってどう思いますか?
塀によじ登った段階で3年以下の懲役または10万円以下の罰金刑になってしまう、その後庭まで侵入して建物の中まで入っていっても法定刑自体は一緒って解釈、おかしくないでしょうか?
私、小さいころにさんざん他人の家の塀によじ登ってますけど。
塀の上を歩いたらさすがに侵入でしょうけどね。よく歩いたな。庭の中にもとびおりたし、人の家の屋根にも勝手に上ったし…w
ちなみに「建造物」とは、人の住居ではない建物という意味です。
人家なら「住居侵入」、会社とか今回のように警察署なら「建造物」なのです。
みなとみらいあたりに散見される売れ残りの新築マンション物件(未入居)なんかは「建造物」なんでしょうかね?未入居であっても住居用だから「住居」かな?
まあそんな判断は検察官に任せとけばいいや。どうせ罪状変わらないし。
ではまた。