年末の大ヤマ来たる

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毎年のことですが、年末には、事前には全く予想できなかった大ヤマが訪れます。
我々の仕事は常に読みが大事なのですが、なぜか年末には、往々にして予想を超える展開があったりします。
そんなときは、今まで予想もしていなかったような対応を余儀なくされ、今まで使っていなかった脳みそ部分をフル回転させるようなことになります。
もちろん全くの新件受任については予想もできませんよね。
そんなこんなで年末はいつも大忙しなのです。
先日、うちの新人イソ弁がこんなことを言っていました。
「2~3週間前までは、年末はさすがに少しは予定に余裕があるなと思ってましたけど、気付いたらむしろ今までより忙しくなってましたね…」
確かにそうかも。
たぶんこんな生活を10年も続けてきているので、無意識のうちに年末の予定は少し余裕を持ってスケジューリングするようになってるんでしょうね。
にもかかわらず年末の大ヤマは訪れると。
で、すったもんだして、ようやく御用納めの日の夕方くらいになって落ち着いてくる(気になる)と。
そんな年越しを毎年やってるわけです。
そんなに忙しいのに何でブログ書いてるかって?
だって、12月の投稿が1通じゃさみしいじゃないですか。w
さてさて、そんな中ですが、めちゃめちゃ気になるニュースがありました。
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特捜検事が捜査報告書の改変指示、懲戒処分に
読売新聞 12月21日(火)22時43分配信
 大阪地検堺支部が11月、放火事件の被告男性の起訴を取り消した問題に絡み、大阪地検は21日、同支部に派遣されていた元特捜部の高宮英輔検事(38)(20日付で総務部に異動)が、放火事件の捜査報告書を警察に改変させたとして減給100分の10(3か月)の懲戒処分にしたと発表した。
 高宮検事は、男性が事件発生時に「家にいた」とアリバイを述べた記載を削除させており、地検は「不適切な行為だ」と謝罪した。特捜部では郵便不正事件の証拠品を改ざんしたとして元主任検事・前田恒彦被告(43)が逮捕、起訴されている。
 大阪地検によると、高宮検事は4月、特捜部から堺支部に派遣され、この放火事件の公判担当となった。貝塚署が男性の言動をまとめた捜査報告書2通を読んだ際に「事件発生日時頃は自宅で寝ていた」と発言した直後、「うそをつきました」と撤回したとする記載を発見。高宮検事は「撤回しているので、必要のない記載」と主張し、記載を削除させた。
 9月下旬、高宮検事が別の検事に削除の経緯を明かしたため発覚した。同地検は高宮検事と事件を担当した警官2人について虚偽公文書作成容疑で捜査したが「削除の理由は、男性がうそだと申告したため」として21日付で不起訴(嫌疑なし)にした。
 高宮検事は2000年4月に検事となり、東京地検特捜部にも勤務歴がある。



最終更新:12月21日(火)22時43分
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2000年4月に任検したということは、高宮検察官は52期。
私の1期上の方ということになります(司法修習の終了時期は半年しか違わないのですが)。
上記記事で正面から問題とされているのは、「高宮検察官が、警察官が作成した捜査報告書のうち、検察官にとって不利ともいいうるであろう部分について、事後的な改変(削除)を指示したこと」です。
おそらく法曹界での評価は分かれうると思いますが、個人的には、これは大問題だと思います。
被疑事実は虚偽公文書作成関係だったようですが、どちらかというと証拠改ざんに近いことではないかと思うからです。
何か歯切れが悪いな?と思われるかもしれませんが、それは、行為の評価がかなり微妙だからです。
本当に被疑者が「嘘をつきました」と言って当該供述を撤回したのなら、確かに当該記載そのものを削除することにも一定の合理性はある、ともいいうるわけです。
ただ、警察官の作成した捜査報告書は、検察官の手元に渡った段階では、既に完成された証拠なわけです。
仮に当該捜査報告書の内容が違ったのであれば、後から注文をつけて既に完成されている当該捜査報告書の記載そのものを敢えて訂正削除するのではなく、新たに報告書等を作成して、従前の捜査報告書の記載が誤っていた理由等をきちんと報告し直さなければならないはずです。
しかし、報道によると、高宮検察官は、そのようにはせず、既に完成されていた捜査報告書の記載(検察官にとって不都合とも言いうる部分)そのものをカットし、被疑者が(真実かどうかはともかくとして)アリバイを語った事実を証拠上完全に抹消した、ということのようです。
単純な誤字脱字の訂正、とはワケが違うようです。
もしそのとおりなら、これを虚偽公文書作成被疑といっては、少々生易しすぎるのではないでしょうか。
私には証拠隠滅被疑にしか思えないのですが。
しかし、上記記事の行間を読むと、実はもっと深刻ではないかと思われる問題提起が2つほどあるように思います。
それは、(1)高宮検察官が起訴した被疑者について、11月に起訴が取り消されていること、(2)事件が発覚した端緒が、検察官同士の会話にあること、ではないかと思います。
起訴が取り消されるということは、すなわち、捜査を行って有罪を確信して起訴を行ったはずの検察庁が、その後に自ら起訴を取りやめるということです。
そうそうあることではありません。
これは、公判期日の前に検察庁が証拠上公判を維持できないと判断したか(=要するに敵前逃亡に近い)、あるいは当該男性について刑事責任を問えない可能性があると判断した(例:いわゆる意思能力の問題など)、ということを意味します。
いずれの理由にせよ、そんな脆弱な起訴をしてしまった高宮検察官、及びその上席の方々の捜査能力等が大いに問われる状況であることは確かでしょうね。
次に、検察官同士の会話からこういうことが漏れるということそのものが、大阪地検が一枚岩でないことを如実に示しているように思われます。
大阪地検の自浄作用がきちんと働いている、という評価も可能かもしれませんが、私なんかは、単純に「同じ大阪地検なのに、特捜部と堺支部はやっぱり仲が悪いのかな?」などとついつい思ってしまいます。
検察官同士って、ある意味裁判官同士とか弁護士同士以上に、アイデンティティを共有しやすいような気がするのですけどね。
「悪は許さない」というアイデンティティは、ある意味単純だと思いますので。
もっとも、善悪という観念は、一見分かりやすいようで実は全然分からない、という性質のものでもありますけどね。
日本に1億2000万人の人間がいるなら、日本には1億2000万以上の「善悪」観があるわけですからね。
この事件を見ると、つい思い出さずにはいられないのが、今年日本中を震撼させた大阪地検特捜部の前田元検察官(以下「前田氏」)の証拠変造事件です。
共通する部分もあり、全く異質な部分もあり。
共通するのは、当たり前ですが、いずれも大阪地検特捜部の検察官によって、証拠に手が加えられたという点。
ただ、高宮検察官の場合は、検察官の手先となる警察官に対して指示を出して警察官作成の報告書を訂正させたということですから、内容によってはセーフの可能性もないではありません(私はアウトのような気がしますけど)。
前田氏の場合は、客観的証拠であるFDのデータ日付改ざんですから、証拠の改ざんという意味ではより悪質性が高いともいえるでしょう。
全く異質な部分は、高宮検察官の行動については、動機及び目的とも全然分からないわけではない(だから不起訴?)、ともいえそうなのに対し、前田氏の改ざんは、動機はもちろんのこと、その行動の目的についても全くもってワケ分からない(だから直ちに起訴された?)、という点でしょうか。
詳しくは公判を待つしかないでしょうが、現時点の報道レベルの知識で言えば、前田氏は「つじつまを合わせようと思った」とか「不都合な事実を消したかった」みたいなことを言っているようですよね。
しかし、どう考えても前田氏の行動は、百害あって一利なしの行動としか思えません。
何がしたかったのか全くわかりませんね。
本当に「特捜のエース」なんて呼ばれた人なのでしょうかね。
あ、あと、各検察官の上席にまで被害が及んでいるかどうかという点で、前田氏の件と高宮検察官の件では全く異なりますね。
前者の上席は逮捕勾留されて起訴されちゃってますからね。
ちなみに、大坪元特捜部長と佐賀元副部長は「前田からは何も聞いていない」と主張しているようで、前田氏の言い分と真っ向から相反しているようですね。
これをどう読むか。
考えられる選択肢は、①片方は本当のことを話しているが、片方は意図的に嘘をついている。②片方は本当のことを話しているが、片方は意図的にではなく、事実と異なることを話している。③両方とも本当のことを話している。④両方とも意図的に嘘をついている。⑤両方とも意図的に嘘をついているわけではないが、結果として事実と異なることを話している。というあたりですね。
読みが難しいところです。
ではまた。